2003年夏のワークキャンプ

鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ

チーフコーディネーター 村上友和(むらかみともかず・東京農業大学2年)
(写真は、本文の下にあります!)


鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリワークキャンプは、釧路湿原や、タンチョウの保護に協力することを目的として実施されました。

【活動日程】
  2003年8月24日(日)〜8月31日(日) 7泊8日

【活動場所】
 北海道阿寒郡鶴居村字中雪裡南
 (財)日本野鳥の会 鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ

【主な活動内容】
 ・タンチョウの生息地復元区域での植生調査
 ・ハンノキの萌芽調査
 ・タンチョウの巣の調査(巣の周囲の植生調査)
 ・タンチョウの農業被害の対策のための防鳥器具作り

●タンチョウの生息地復元区域での植生調査
 近年、釧路湿原周辺の山などでは開発が進み、山が削られたり、木が切り倒されています。その結果のひとつとして釧路湿原に土砂が流れ込み、急激な速さで湿原が乾燥してしまっています。この乾燥化によって、湿原の比較的乾燥しているところに繁殖しているハンノキという木が、以前は無かったところまで生えてきてしまいました。

 翼を広げると2メートル以上にもなるタンチョウは着地の際に十分なスペースが必要となります。そのためハンノキが茂っている場所には降り立つことが出来ません。結果、釧路湿原の中でもタンチョウが暮らすことのできる場所が減少してきてしまいました。

 そこで、鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリではこのハンノキを伐採し、湿原を従来の湿った環境に戻し、タンチョウの生息地を復元させる計画を進めてきました。

 今回のワークキャンプでは、ハンノキを伐採した後の湿原の状況を調べるために、植生調査のお手伝いをしました。この作業は胸まである長靴を履き、普段は立ち入ることの出来ない、湿地に実際に入り、生息地復元区域内の植物の種類・分布の割合を調査しました。

●ハンノキの萌芽調査
 伐採したハンノキの切り株をそのままにしておくと、切り株から萌芽と呼ばれる細い枝が生えてきて、またハンノキが大きく成長してしまいます。

 今回は復元区域内のハンノキの萌芽の状況を調べるため、伐採した切り株から萌芽が生えているか、生えていればその長さを測定した後、伐採しました。

●タンチョウの巣の調査
 植生調査を行った場所では生息地復元の活動が実り、一昨年、8年ぶりにタンチョウの営巣が確認されました。そのタンチョウの巣の周辺の状況を調べるため、周囲の植生調査、巣の周りの環境の調査をお手伝いしました。

●タンチョウの農業被害対策用防鳥器具作り
 近年タンチョウの数は年々増えてきています。その反面、タンチョウの数が増えることによって、いくつかの問題が表面化してきました。そのひとつとして、タンチョウの農業被害の問題があります。

 このタンチョウによる農業被害の対策として、タンチョウサンクチュアリでは、ペットボトルで作った風車を立てて、警戒心の強いタンチョウが畑に入らないようにする対策をとっています。

 この風車の防鳥器具を新たに180個作りました。

●その他の活動

<セミナー>

 一日の作業が終わった後、夜に自然保護やボランティアについて、参加者が考えながら学ぶセミナー(勉強会)を行いました。自然保護の現場で働いてらっしゃる、日本野鳥の会のレンジャーさんのお話を聞くなどして、自然保護をはじめ様々なことを学びました。

<地元の方々との懇親会>

鶴居村の地元の方をはじめ、環境省の職員さん、地元のハンターの方、獣医さん、ビジターセンターの職員さん、農家の方々など大勢の社会人の方と、ワークキャンプ参加者の学生との懇親会が行われました。自然保護をはじめ、鶴居村やタンチョウ、将来について貴重なお話を聞くことができました。

<野外セミナー>
ワークキャンプの最終日に一日をかけて、タンチョウサンクチュアリのレンジャーさんに釧路湿原を一周案内していただきました。

長年タンチョウの給餌をされている方や地元の農家の方のお話を聞いたり、湿原の水源地を訪れたり、湿原を一望したりして釧路湿原を体験し学びました。

【日程】
 ・8月24日(日)
   移動・オリエンテーション・植生調査準備
   アイスブレイク(親睦を深めるためのゲーム)
 ・8月25日(月)
   昼:植生調査 夜:セミナー
 ・8月26日(火)
   昼:植生調査・萌芽調査 夜:セミナー
 ・8月27日(水)
   午前:萌芽調査・ホザキシモツケ伐採・タンチョウの巣調査
   午後・タンチョウをテーマにしたアクティビティ体験 夜:セミナー
 ・8月28日(木)
   午前:防鳥器具作り 午後:ウチダザリガニ(外来種)釣り
   夜:地元の方との交流会
 ・8月29日(金)
   防鳥器具作り・レンジャーさんとのセミナー
 ・8月30日(土)
   野外セミナー
 ・8月31日(日)
   宿泊所・ネイチャーセンター大掃除・解散

●参加者の声

石田亜美(麻布大学2年)

 美しく飛び立っていくタンチョウの姿を私は忘れられません。

 そのタンチョウも一時は絶滅が伝えられていました。大正末期に10数羽が発見され、それから今に至るまで、地元の人々を中心に保護活動が行われ、平成15年1月には約900羽が確認されました。今まで保護活動を続けて下さった多くの方々に心から感謝します。

 保護の一貫として私達が行った主な活動は、植生調査、ハンノキの萌芽調査、防鳥器具作りなどです。これらの活動を通して、自分が少しでも力を提供できたことがうれしかったです。また、それぞれの作業をしていく中で、自然を保護するということは、すぐに結果にでるものではなくて、多くの方面から長い時間をかけて継続していくことが必要なのだと実感しました。

 人と自然が共存していく事を考えなければならない現代では、なおさら多方面からのアプローチが必要でしょう。そしてさらに、タンチョウの個体数が増加する一方で生息地は減少しているという現状がある中で、近年農業被害も発生しており、ただ個体数の増加だけ続けていてはいけない時期がきているというレンジャーさんのお話もありました。また、野生動物の生存をどこまで人が手助けしていいのか、人と野生動物の距離についても考える必要があると思います。

 自然保護を行う上で、人と自然が共存することは大きなテーマであり、難しい問題も多く残されています。今回キャンプで出会った仲間をはじめとする多くの人と力を合わせて、これらの問題に取り組んでいきたいと思います。

 最後に、このような機会を与えて下さったレンジャーさん、地元の方々、一緒に参加したメンバーのみなさん、本当にありがとうございました!


岩澤 達(江戸川大学3年)

 今回、ワークキャンプ参加にあたり、「鶴居を知り、自分の自然保護に対する考えの位置を知る」ことが目的でした。

 初日から嬉しい出来事が二つありました。これから一週間共に活動する仲間に会えたことと、一羽のタンチョウを見られたこと。

 二日目から行われた湿原内での植生調査、ハンノキ萌芽調査及びタンチョウの巣調査では、生い茂るヨシやホザキシモツケを掻き分けながら調査しているうちに、今、実際に自然保護活動の現場に居るという現実、メンバーの真剣に取り組む姿勢に圧倒され、かつ永続的に調査結果が反映されるということの重みが良い緊張感を生み、その結果、粘り強さが無い私に最後まで目標達成を諦めない事の大切さを教えてくれた。

 また、タンチョウの巣調査では巣の状態だけでなく、タンチョウが営巣する上で、巣の位置と周辺の自然環境との因果関係を見ることが出来た。あの場所になぜ営巣したのかと自分でも考えるキッカケになったし、改めて自分の視野の狭さを痛感した。

 夜のセミナーは自然保護に対する考えの位置を知ることが出来たので、今後どのような行動が必要かを考えられたので、更に意識を高められた。有意義な時間を共有できたので、セミナーはこれからも続けていって欲しいと思う。

 防鳥器具作製の中で、人が良かれと思い続けた給餌活動によって野生動物と人との距離が次第に無くなり農業被害が出ても、現実には今も給餌活動が続けられているという矛盾のようなものさえ感じながら作業していたけど、じゃあなぜ防鳥器具を作ったり、植生回復に取り組むのかという意味をも再度考えさせられ、人と野生動物との見えない境目を壊したのも結局は人であり、どこまで介入していいかも分からないままここまで来てしまった人間の自然界におけるあり方まで考えさせられた。

 晴天に恵まれた野外セミナーは、原田さん、音成さんのご好意で地元住民の方々に直接鶴居の自然保護の変遷や苦労話、今後の展望について聞けたのは貴重な時間だった。地元の方々は給餌活動を生活の一部と捉えて、鶴居の自然が好きだからという気持ちが伝わってきて、清々しく思えた。

 細岡展望台で見た夕焼けとそれに映える山の稜線、広大な釧路湿原、900羽という数が信じられない位沢山見たタンチョウに言葉を失う程の感動動を覚え、日々の活動で徐々に親睦が深まり、疑問に対して答えてくれることで新しい気付きが生まれたり、失敗もしたけど楽しい時は心から笑い合い、頭も心も鶴居一色で目的も果たせたのは、原田さん、音成さんを始めとする参加した仲間の支えがあったからに他なりません。心より感謝致します。

●参加者の様子

今回のワークキャンプの参加者は東京、神奈川、千葉、埼玉、山形から集まった男女各4名ずつの計8名でした。

それぞれの学年はばらばらで、専攻も獣医学部、農学部、工学部、国際地域開発、政経学部など様々でした。参加者の全員に共通していたことは、自然が好きだったり、自然を守りたいという気持ちでした。

はじめははみんなぎこちない様子でしたが、作業を重ねていくうちに打ち解けて、最後には素晴らしいチームワークが出来上がりました。

最終日には別れるのが惜しいくらいでした。                                


●おまけ

・鶴居ワークキャンプのお風呂は毎日が温泉!参加者のみんなからも好評でした。その名も『美人の湯』。一日の疲れが取れるだけでなく、お肌もツルツル。ワークキャンプが終わるころには嫌でも美肌になってしまいます。鶴居ワークキャンプは美容効果もあり??

・ワークキャンプ中の食事は自炊です。毎日食事当番を決めているのですが、なぜか毎回台所には8名が勢ぞろい。結局ほぼ全員で食事を作っていました。

ワークキャンプが終われば参加者はみんな文字通り同じ釜の飯を食った仲間。ワークキャンプだけでなく、その先も続く仲間と出会うことが出来るかもしれません。

・夜は毎晩といっていいほどお酒が登場。そこではふだんは話すことの出来ないような熱い討論も交わされます。自分の思いを伝えたい人はぜひワークキャンプに参加してみてはいかがでしょうか?

タンチョウを怖がらせる?ためのペットボトル風車を作っている
ところ! なぜにタンチョウを怖がらせる?!
デントコーン畑にこんな感じで立てる。
デントコーン畑に撒いた種を食べられないようにするのだ!
ヨシ原の復元事業の効果測定調査。復元事業が始まって
5年目になるが、良好なヨシ原が広がった!
調査が終わってみんなで記念撮影!
野外セミナーの様子。ねぐら見える高台から、視察中。
(夏なので、タンチョウはいません!)
釧路湿原の奥地。普段は入れないところにも勉強の
ために入らせてもらいました。
地元の方を招いての懇親会。農家の方、環境省の方、
阿寒町ツル観察センターの方など、30人くらいで、盛大
に行われました。
ちょっとリッチに、ちょっとおしゃれに、
朝食はフレンチトースト!


原田チーフレンジャー、ありがとうございました!
(こんな格好までしてくれました・・・)